猫が感染すると長い年月を経て免疫の力が抑制さ
れ、いろいろな病原体に対し抵抗力が弱くなり、様々な病気にかか
りやすくなります。そして末期の病気は人間のエイズによく似てい
るため、猫のエイズウイルスとも呼ばれます。
このため、人間のエ
イズと混同されたり、同居の犬や人間に危険があるのではないかと
いう心配もよく聞かれますし、ひどいときには猫がエイズになった
のは飼い主から移ったのではないかなどという噂が立つこともかつ
てはあったようです。
しかし現在は人間のエイズウイルスも猫のこ
のウイルスも遺伝子の比較ができるようになって、似てはいるが別
のものであることがはっきりわかっています。
人間のエイズ患者も
その多くが、輸血などで知らずに感染した、過去の医療被害者です
が、猫における感染は、やはり人間の作りだした異常な生活環境の
被害者とも言えるでしょう。猫は過密からくる喧嘩が原因で感染す
ることがほとんどだと言われています。
したがって、不幸にも感染
した猫を、きたないもののように扱ったり、見捨てたりすること自
体、人間の文化程度の低さを象徴する行動といえましょう。
このウ
イルスに関する限り、日本は世界一の汚染国です。
そしてその原因
は、人間の密度、猫の密度、捨て猫の多さであることは明かです。
文明国のはずの日本がこの不名誉な世界一を獲得したことで、われ
われは猫とのつき合い方をもう一度考え直してみる必要があるでしょ
う。
感染した猫は最初リンパ 腺が腫れる程度の症状しか出さず、その後何年も無症状で健康に生 活しています。そして感染してから何年も経って、いろいろな慢性 の病気に悩むようになります。症状として、
などがあります。ただし、こ れらの症状は1つ1つは猫免疫不全ウイルスに必ずしも特徴的な症 状ではなく、別の原因でも起こるので、これらが見られたからといっ て、エイズだとは安易に診断しないようにしてください。またこの ウイルスに感染していることとエイズを発症しているということは 全く別物です。感染していても何も症状を示さずに、長い期間生き ている猫もたくさんいます。
したがって喧嘩を避けることで感染はほとんど防ぐこと
ができそうです。
その他輸血による感染も過去にはありましたが、
現在では検査もできるようになっているので、検査済みの輸血猫か
らならば安心です。このウィルスは喧嘩による咬傷が主な感染ルートと考えられますので、家の中
だけで清潔な環境にいる猫には感染の機会はほとんどないといってよいでしょう。
したがってまず猫が猫免疫不全ウイルスに感染しているかどうかを 知っておくことが大切です。あらかじめ知っておけば、これから起 こるかも知れないことも大体予測がつき、治療の先手を打ったり、 手術が必要な場合でも細心の注意で望むことが可能だからです。
個
々の慢性の病気に対して治療ができるのはエイズの前の段階のエイ
ズ関連症候群(ARC)の時期までで、その後もっと激しい免疫不全が
起こってエイズになってしまうと、治療は困難です。
病気を進行さ
せないためにも早めな処置が大切です。
危険を減少させる方法は、猫に喧嘩を
させないことです。
それには雄猫の去勢、雌も避妊手術が第一でしょ
う。
また外の猫を家で飼うことにした場合には、家に入れる前に血
液検査を受けるべきです。
野良猫の猫免疫不全ウイルス感染は、家
になついてきた猫でよく発見されます。これは実はなついたのでは
なく、調子が悪くて餌を探すのがめんどうになり、人間になついて
くる場合が多いからです。そして調子がもっと悪くなって病院につ
れてこられる例が多くあります。
このウイルスに対する消毒は比較 的簡単です。
一般にはほかのウイルスも殺すいちばん強力
な消毒薬として、ブリーチ(洗濯用ハイターなどの塩素系漂白剤)
が使われます。
また家の外が猫過密の状態で
なければ、感染の危険性も非常に少ないと思われます。
外の猫の平
均寿命は、室内飼育の猫に比べ、はるかに短いことが知られていま
す。やはり若いときに雌を求めて放浪したり、交通事故に遭ったり
することが多いからでしょうか。
エイズという病気は、何年もかかっ
てだんだんに免疫が障害されてゆく病気なので、交通事故で死んで
しまうほうがむしろ先かも知れません。
猫にとって良い環境に引っ
越すか、家の中で十分な愛情をもって猫と同居するか、頭の痛い問
題ですね。
このような性格のウイルスな ので、症状といってもひとことでは言い表せません。感染して最初 の1-2カ月は、熱が出たり食欲がなかったりというように他のウイル ス感染と同じような症状ですが、重大な病気はもっと後になってか ら出ます。
猫 はこのウイルスに感染すると体の中の免疫と激しい戦いが起こり、 免疫が勝つとウイルスは消えてしまい、免疫が効果的でないと持続 感染というウイルスの居座り状態が作られます。これは感染したと きの猫の年齢と深い関係があります。
生まれたてで感染するとほぼ 90%が持続感染になり、このような猫は発病しやすく、若いうちにほ とんど死んでしまいます。ところが離乳期を過ぎて感染した場合は 約50%しか持続感染になりませんし、1歳以上の猫では10%しか持続感 染になりません。したがって自然に治ってしまう猫がかなり多いと いうことです。感染した猫を発見する血液検査で4カ月以上続けて 陽性の場合、持続感染と判定され、そうなるとウイルスは一生消え ない可能性が高いとされています。しかし、持続感染していても健 康で何も症状も出さない猫や、突然ウイルスが消えてしまうものも いるので、家の中で飼い、定期的に病院で診察を受けましょう。
猫白血病ウィルスワクチンについて
一昨年と今年になってあいついで「FeLVワクチン」が発売されFeLVの予防が
出来るようになりました。
現在日本で発売されているFeLVワクチンは2種類で一つは、白血病ウィルスの一部分を抗原として用いるサブユニットワクチンと言われるものと、もう一つは、全ウィルス成分を不活化したいわゆる不活化ワクチンと言われるものとがあります。
副作用については、3種混合ワクチンと同様です。
猫が他の猫と接触する可能性のある間は、毎年1回追加の接種を行います。
追加接種の際も必ずウィルス検査します。
ウィルス検査→陽性→ワクチン接種なし ↓ 陰性 ↓ 第1回目ワクチン接種 ↓(1ヶ月後) ウィルス検査→陽性→接種中止 ↓ 陰性 ↓ 第2回目ワクチン接種
治療としてウイルスを打ち負かす治療法はありませんが、ウイル スは裏で暗躍しているだけで、現在の病気には直接原因ではい場合 も多いので、そのような場合には現在の病気に対する治療で、状態 がよくなることもあります。白血病があれば人間の場合と同じよう な化学療法を行い、激しい細菌感染があれば抗生物質の投与を行う というように、個々の病気に対応した治療を行います。
ウイルスに
感染しているから、白血病ウイルスだから、人間に移るとあぶない
から、そんな無知な理由で治療をあきらめてはいけません。猫にも
治療を受ける権利があります。
野良猫を検査すると感染しているものはたぶん2%位かそれ以下
だと思われます。そして今いる飼い猫が1歳以上の成猫だとすると、
感染しても持続感染になる率は10%以下です。
すなわち感染猫と出会
う確率x持続感染になる確率は0.02x0.1=0.002すなわち0.2%とずいぶ
ん低いことがわかります。そしてその猫が運悪く感染した場合白血病
になる確率は20%程度とすると、外に行ってウイルスをもらって、そ
れが持続感染になって白血病になる確率は、さらに0.2をかけて0.0004
となってしまいます。
ただし家の外の病原体は猫白血病ウイルスだ けではなく、もっと危険なものも沢山あることを忘れないでくださ い。
病
院では、このような症状、血液検査、腹水などの検査、ウイルス抗
体検査を総合的に判定して診断を行い、さらに全身状態を評価した
上で治療が可能かどうか判断します。
一部の猫だけがなぜ発病するのか はよくわかっていませんが、多分ストレスその他のファクターが一 緒になって発病するのだろうと考えられています。ですからワクチ ンがない以上、猫を感染から守るのは事実上不可能で、むしろ過密 や他のウイルス感染などのストレスを避けた飼育環境が大切です。 外からの猫出入りがない家の中だけで飼っている猫ならば、毒力の 強いウイルスとの接触は避けることができるでしょう。
猫がこのウ
イルスに感染したことがあるかどうかは、血液の抗体検査でわかり
ます。抗体をたくさん持っている猫は現在ウイルスが体内にいる可
能性があります。そのような猫はウイルスを便の中などに排泄して
いる可能性も考えられます。
獣医師はそれぞれ
の場合に最も適切な治療法を選びますが、完治の為の治療ではない
ことを理解して下さい。また貧血や神経症状が進んだものでは、治
療が特に難しいものと思われます。
それではどのようなことに注意した
らよいのでしょうか。
まず猫白血病ウイルスなど他のウイルスに感
染しないようにすることです。これには感染した猫と接触させない
のが一番です。それから集団飼育の場合には、猫同士の関係からく
るストレス、換気、過密、騒音など他のストレス要因も十分考慮し
ます。
猫は本来集団で生活する動物ではないので、集団の中でのウ イルスの広がり、集団の中でのストレスなど、どうもこの病気は人 間が作り出したような気がします。たとえ外に出ている猫でも、の びのび暮らしているならばこの病気は非常に少ないと思われます。
動物から人間に感染する伝染病として有名です。トキソプラズマと 呼ばれる原虫が原因の病気で、この原虫は多くの温血動物に感染し ますが、猫科動物だけが便の中にオオシストと呼ばれる卵のような ものを排泄するので、特に重要視されています。
猫は感染したネズ ミなどの小動物や豚の生肉などを食べて感染し、感染後の1−2週 間便の中にオオシストを排泄します。オオシストは土の中で数カ月 生存して、その間に他の動物の口から感染します。感染した猫は無 症状であったり、肺炎、肝障害、神経症状、眼症状、下痢など様々 です。
人間への感染は、豚の生肉を食べたり、猫の便中に排泄されたオオシ
ストが口から入って起こりますが、大人では免疫抑制状態以外では
症状はでることがありません。ただし、感染した母親から、胎盤を
通して胎児が感染すると、激しい病気になることがあります。
した
がって、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると、胎児の死産、
流産、脳水腫などの恐れがあります。しかしながら、過去に感染して
しまっている女性の場合には、免疫ができているので、妊娠にはまず
問題ありません。
人間が猫の便からトキソプラズマに感染するかどうかは疑問視されて いますが、少なくとも可能性はないとはいえないので注意するに越し たことはありません。妊娠している女性は、猫の便を片づけたりしな いよう、また猫には生肉を与えたり、ネズミをとったりしないよう注 意すればよいでしょう。
便の中のオオシストは、2日以上たたないと 感染力を持たないので、放置しないで毎日片づければ安心です。便器 の消毒を行いたい場合には熱湯消毒がよいでしょう。
最後に注意をもう1度。トキソプラズマ症の予防には、猫以外の原 因も大変重要です。豚肉にはよく火を通して調理してください。そ して、便はすぐ始末するように心掛けて下さい。
蛇足:猫の便は生で口に入れるようなことはしないでください。